コロナ後の欧州マーケット

Covid-19と付き合いながらのマーケティング戦略

2020年の始まりとともに、世界中がCovid19にかき回され、冬を越して、春もさーっと過ぎ、夏を迎えようとしています。私の住むロンドンは5月下旬の今、まだロックダウンの最中ですが、「ノンエッセンシャル(不要不急のもの)」を販売するショップは、6月15日からの営業再開に向けて、ようやくロードマップが作れそうなタイミングになってきました。

 

ロックダウン中の国民への経済支援は、国によって違うため、「欧州」、「極東アジア」というように、一概にマーケットではくくれないのですが、欧米で信頼度の高いWGSNのレポートとともに、ロンドンのライフスタイルリテイル業界に20年身を置く日本人である私の視点から、日本のブランド、特にこれから欧州市場進出を目指すブランドへの応援を兼ねて、ウィークリーでレポートを発信していきます。

今回のレポートの数字は、全てWGSNのレポート(Coronavirus Marketing Strategy: May 2020)から引用しています。

 

まずはCovid19と付き合いながらのマーケティング戦略作り。金融危機、コロナ危機など危機というものが起こると、まず早速削られるのがマーケティング予算。人員を削るよりは確かに良いと思います。実際にWGSNのレポートによると、2020年、米大手のCocaColaとGoogleは、大幅なマーケティング予算の削減を行っています。オリンピックが2021年に繰り越しになった費用も大きな削減であり、彼らは典型的なMarketinglaterグループです。ただ、全ての会社が削っているわけではなく、予算通りマーケティングを行っている会社もあり、P&GとDominoPizzaはMarketingnowグループです。特にDominoPizzaは、TV広告においてフランチャイズのパートナーを全面に押し出し、「雇用を促進している、地域に密着したビジネスを行っている」など、価値と安心、安全というポジティブなメッセージを送り共感を得ています。

 

2008年の金融危機の際、マーケティング費用をあえて増やした企業は、削った企業よりも3倍早く業績回復したという実績もあり、コロナ危機での打撃が比較的軽い場合は、むしろマーケティング活動、費用を増やすべきというのが私の持論です。ただ、消費者とのコミュニケーションの仕方には十分注意が必要で、33%の消費者は「3月、4月のコロナ危機時に適切でないと思われるアプローチをした企業のものは今後購入しないつもり」とのリサーチ結果も出ており、マーケティングコミュニケーションには、微妙なさじ加減が必要です。

 

私は、現時点で大きなシェアを持っていない、欧州ではこれからの日本のブランドにとって、「ピンチはチャンス」であると考えています。私が現在、欧州のマーケティングをサポートしている日本のクライアントにも繰り返し訴えているのですが、このような非常時に、消費者に「寄り添う、共感する」、そして「自分の従業員を解雇ではなく、フレキシブルにサポートするという姿勢」を見せ、このデリケートな問いかけをうまくコミュニケーションできるブランドは、できていないブランドのシェアを、比較的簡単に受け継げるとみています。実際に53%の消費者は、非常時に従業員を大切にするブランドは信頼できる、またこれからも支持したいと回答しています。私たちのストッキストである欧州のラグジュアリーライフスタイルショップに、ショップの再オープン支援のため、定価2000円程度の小さなプレゼントを5−10セット送付するので、グッディバッグ用に使用してもらえたらと案内を入れたところ、「このようなサポーティブなブランドは他にない!ありがとう!」など、感銘を受けたショップオーナーたちから、非常に多くの返信を頂きました。このような非常に厳しい時期に受けたサポートは、長い間ショップオーナーや得意先の心に残り、ブランドロイヤリティにも強く結びつきます。

 

消費者も、得意先の担当者も、周りの従業員も、ロックダウンにより、寂しさ、悲しみを感じ、精神的に疲れている人も多く、コミュニケーションやメッセージは、正確であると同時に、「希望」が持てるものであることも必要かもしれません。

 

今後のマーケティング戦略のアクションプランアドバイスとして、

 

·      デジタルマーケティングは、より重要性を増していくので、デジタル化、デジタルトレーニングは必須。日本は欧州に比べてオンラインショッピングを楽天やアマゾン、ZoZoなどの第3者のデジタルマーケティングに頼る傾向がありますが、欧州では自前のオンラインショップでデジタルマーケティングを駆使して顧客管理、ブランドの世界観、メッセージをダイレクトに提供し共感を得ています。今後、最優先で強化すべきポイントです。

·      従業員を切る前に、どのように雇用をキープ、また他社で解雇された人を採用できるか、消費者はブランドの行動、姿勢をしっかりと見ています。ポジティブメッセージを従業員と消費者に送れたブランドは、非常に質の高い従業員を雇用でき、しかも商業的なパフォーマンスを上げられると思います。

·      私の参加するロンドンのスモールビジネスオーナーの勉強会で、コロナ危機に入ってから非常に多く使われている言葉が「Pivot」です。直訳するとスピン、回転などの意味で、どのように柔軟性をもって現実と向き合っていくか、今まで以上に信頼性、創造性、共感がブランドに求められています。

 

言い換えれば、信頼性、創造性、共感性のあるブランドは生き残るだけではなく、進化し、繁栄する特別な2020年でもあります。

 

2020年 6月1日

内田啓子