グローバル化

自転車への回帰

私は6歳でようやく練習の成果があり自転車に乗れるようになり、10歳のころからピアノの先生の自宅までのどかな畑の続く道を30分自転車で走りながら「自転車があると子供でも自由に一人で遠くまで行けて楽しい」と思っていました。この自転車が今ヨーロッパで大変なブームになっています。

もともと自転車通勤人口はロンドンも非常に多く、自転車通勤の人たちがオフィス到着後に使うシャワールームは完備されていますし、オフィスの駐輪場も非常に整備されています。この上に、Covit-19のパンデミックを契機に密になることを防ぐため地下鉄やバスの代わりに、またジムでのエクササイズのかわりに自転車や歩いて通勤することがますます大きなトレンドになっています。UKのCovit-19の犠牲者の多くが肥満など複数の健康問題を抱えていたことも発表されており、このため、今週英国政府が3000億円近くをかけて自転車専用のレーンを作り、車道を車と一緒に走っているサイクリストへの安全性を高める政策を発表し、国をあげて自転車通勤、エクササイズを推奨することになりました。自転車通勤者が増えることにより排気ガスによる地球温暖化へのダメージの削減や渋滞が軽減されることもメリットです。

 また今週の日経新聞で自転車部品大手のシマノが株価でJR西日本、日産を抜き上場後の最高値を記録し、自転車部品メーカーの躍進も顕著です。シマノは日本では稀な89%が海外のセールスによる真のグローバル企業であることもリポートされ、2週間前のFinancial Timesではシマノ前会長でグローバル化の立役者であった島野喜三氏が亡くなったことが欧米で大きく報じられています。ツールドフランスのような世界有数のレースからマウンテンバイクまでシマノの部品なしには世界中の高級自転車は生産不可能ということで、日経でもこのような非常時こそ内向きになるのではなく、企業はシマノのようにグローバル化に転換する機会だと訴えていますが、私も同感です。このパンデミックをアンラッキーな出来事と捉えて静かにやりすごし、他社の動向を見てから戦略を立てるのか、機会と捉えてクリエイティブに自社の戦略を立てグローバル化に変換を打つのか、選択の時を迎えていると思います。

Financial Timesによれば、アメリカでは大人用自転車の売り上げが前年比120%増で、欧州でも新しい自転車はオーダーしてから2−3ヶ月待ち、この自転車を待っている間に古い自転車をガレージから出して、修理を学ぶのためのワークショップを受けるためのウェビナーが2週間待ちの状態です。私の友人も日本円で100万円前後の自転車をパーツに拘って特注していますが、このような自転車マニアもロンドンにもかなり存在していて、車体を特注の色に塗り替えたり、タイヤを特注したり、おしゃれなヘルメットなど自転車関連アクセサリーも大きなポテンシャルを秘めています。

WGSNのリポートでもロックダウン中に家でエクササイズを行っていた人はしていない人に比べて精神的なダメージを受けにくく、パンデミックを機に以前よりも体と心の健康やエクササイズに気を使う人は全世代で急増しています。

このような中、ライフスタイルのリテイラーは自転車やウォーキング通勤の際のウォータープルーフのジャケットやバッグ、帽子、シューズ、ウォーターボトル、お弁当箱(Bento boxは今や英語です)お弁当箱とセットのカトラリー(プラスティックのカトラリーや割り箸はエコロジカルの観点からNGな上、衛生面から自分のカトラリーを使用したい人が増えている)新たな需要の増えたエリアの商材を探しています。

英国政府はかつてのオリンピックサイクリングの選手をインフルセンサーにして自転車通勤を推奨し、地下鉄やバスでのCovit-19の感染率を下げながら、通勤中のエクササイズで健康な体作りを推奨し、この冬にやってくるかもしれないパンデミックの第2波の死亡率を下げようとしています。

全世代で「健康」がトレンドキーワードの一つになった今、長寿世界1位の日本での当たり前の生活習慣やアイデアが活かせるタイミングなのかもしません。ライフスタイルや工芸のインダストリーで次世代のシマノが出てくるためのサポートが出来たら私にとっても幸せなことです。

欧州進出も計画や戦略を立て選択をしながら、自転車に乗って長い旅に出かけるようなものなのかもしれません。

内田啓子