欧州進出

英国のデパート事情

日本のデパートの後退は20年以上前から話題になり深刻化していますが、英国のデパートも例外ではありません。ただ、英国のデパートでは打開策が打たれています。

日本でも認知度の高いHarrodsはツーリストにターゲットを絞り、特にオーナーがアラブ系であることからアラブ系の富裕層に強く、ロンドンに滞在する際にまとめて購入する、ホテルへの配送サービスなども徹底しています。私がMUJIのヨーロッパでバイヤーをしていた際にもラマダン後に売り上げが上がる事を見込んでストック調整をするなど、ビジネスと宗教も切り離すことは出来ません。

 

トレンドやファッションに強く若い層に非常に支持されているSelfridgesでは、結婚式をデパート内で行い、ファッショナブルなゲストがデパートでお祝いする、など「ショッピング以外の経験」をデパートですることに力をいれています。

 

デパートの今後を鑑み、大きく戦略を変えて展開を始めたのは英国人に一番愛されているリテイラーであるJohn Lewisです。ロックダウン以降閉店を加速化してもなお英国内に34店舗を抱えるためデパートで、戦略変更が必須であり、富裕層を含め一番大きな顧客リストを持ったリテイラーです。彼らは今後不採算点を閉店していくとともに、顧客リストを使用して不動産開発を加速化し、この開発したフラット(日本でいうマンション)にJohn Lewisで販売しているキッチン、家具、照明、電化製品、ブランケット、タオル、アロマデフューザーなどありとあらゆる商品と不動産とのセット販売を開始しました。また大きなデータベースがあるため、富裕層向けにはファイナンシャルコンサルタントが節税や投資のアドバイスも行うため、デパートの販売員の変わりに多くのファイナンシャルコンサルタントが採用されました。

John Lewisの戦略転換は組織としての柔軟性、危機感がないと行えなかったのかもしれません。過去の成功体験や1864年開店の老舗意識を取り払い、大きく舵を切った現在のチェアマンは2019年にヘッドハンターされたジャマイカ移民2世で、英国のトニーブレア政権でアドバイザーの経験もある女性、シャロンホワイト氏です。

自転車への回帰

私は6歳でようやく練習の成果があり自転車に乗れるようになり、10歳のころからピアノの先生の自宅までのどかな畑の続く道を30分自転車で走りながら「自転車があると子供でも自由に一人で遠くまで行けて楽しい」と思っていました。この自転車が今ヨーロッパで大変なブームになっています。

もともと自転車通勤人口はロンドンも非常に多く、自転車通勤の人たちがオフィス到着後に使うシャワールームは完備されていますし、オフィスの駐輪場も非常に整備されています。この上に、Covit-19のパンデミックを契機に密になることを防ぐため地下鉄やバスの代わりに、またジムでのエクササイズのかわりに自転車や歩いて通勤することがますます大きなトレンドになっています。UKのCovit-19の犠牲者の多くが肥満など複数の健康問題を抱えていたことも発表されており、このため、今週英国政府が3000億円近くをかけて自転車専用のレーンを作り、車道を車と一緒に走っているサイクリストへの安全性を高める政策を発表し、国をあげて自転車通勤、エクササイズを推奨することになりました。自転車通勤者が増えることにより排気ガスによる地球温暖化へのダメージの削減や渋滞が軽減されることもメリットです。

 また今週の日経新聞で自転車部品大手のシマノが株価でJR西日本、日産を抜き上場後の最高値を記録し、自転車部品メーカーの躍進も顕著です。シマノは日本では稀な89%が海外のセールスによる真のグローバル企業であることもリポートされ、2週間前のFinancial Timesではシマノ前会長でグローバル化の立役者であった島野喜三氏が亡くなったことが欧米で大きく報じられています。ツールドフランスのような世界有数のレースからマウンテンバイクまでシマノの部品なしには世界中の高級自転車は生産不可能ということで、日経でもこのような非常時こそ内向きになるのではなく、企業はシマノのようにグローバル化に転換する機会だと訴えていますが、私も同感です。このパンデミックをアンラッキーな出来事と捉えて静かにやりすごし、他社の動向を見てから戦略を立てるのか、機会と捉えてクリエイティブに自社の戦略を立てグローバル化に変換を打つのか、選択の時を迎えていると思います。

Financial Timesによれば、アメリカでは大人用自転車の売り上げが前年比120%増で、欧州でも新しい自転車はオーダーしてから2−3ヶ月待ち、この自転車を待っている間に古い自転車をガレージから出して、修理を学ぶのためのワークショップを受けるためのウェビナーが2週間待ちの状態です。私の友人も日本円で100万円前後の自転車をパーツに拘って特注していますが、このような自転車マニアもロンドンにもかなり存在していて、車体を特注の色に塗り替えたり、タイヤを特注したり、おしゃれなヘルメットなど自転車関連アクセサリーも大きなポテンシャルを秘めています。

WGSNのリポートでもロックダウン中に家でエクササイズを行っていた人はしていない人に比べて精神的なダメージを受けにくく、パンデミックを機に以前よりも体と心の健康やエクササイズに気を使う人は全世代で急増しています。

このような中、ライフスタイルのリテイラーは自転車やウォーキング通勤の際のウォータープルーフのジャケットやバッグ、帽子、シューズ、ウォーターボトル、お弁当箱(Bento boxは今や英語です)お弁当箱とセットのカトラリー(プラスティックのカトラリーや割り箸はエコロジカルの観点からNGな上、衛生面から自分のカトラリーを使用したい人が増えている)新たな需要の増えたエリアの商材を探しています。

英国政府はかつてのオリンピックサイクリングの選手をインフルセンサーにして自転車通勤を推奨し、地下鉄やバスでのCovit-19の感染率を下げながら、通勤中のエクササイズで健康な体作りを推奨し、この冬にやってくるかもしれないパンデミックの第2波の死亡率を下げようとしています。

全世代で「健康」がトレンドキーワードの一つになった今、長寿世界1位の日本での当たり前の生活習慣やアイデアが活かせるタイミングなのかもしません。ライフスタイルや工芸のインダストリーで次世代のシマノが出てくるためのサポートが出来たら私にとっても幸せなことです。

欧州進出も計画や戦略を立て選択をしながら、自転車に乗って長い旅に出かけるようなものなのかもしれません。

内田啓子

トレードショーのない9月

毎年8月の夏休みが終わるとともにパリのMaison & Objet, London Design Fair, Top Drawerなどなど欧州ではたくさんのトレードショーがあり、このタイミングでクリスマスギフトをオーダーして欧州の各ストアーは10月から店頭にて訴求を始めます。

欧州のクリスマス商戦は日本のクリスマスとは違い親戚一同、同僚一同、友人一同、ご近所の方達にも大きなプレゼントから小さなものまで、毎年私も30個は用意します。そのため11月、12月はなにかと出費が多く、また多くのUKの企業では12月のサラリーは通常の月末ではなく12月中旬に支給され社員のプレゼント需要に応えています。12月中旬から1月31日のお給料日までの間隔が長く「きつい1月」と言われ、寒いこともあって家に閉じこもるかジムで体を鍛えて出費を控える層が多くなります。30個以上ギフトを買うとなると時間もかかり、リストやプラン、予算を決めてショッピングを行いますが、12月には有給休暇を取って平日1日でリストを作ってプランしておいたクリスマスショッピングをガツっと行う人も多く、私がロンドンのオフィスで働き始めた頃には「ショピング用の休暇」があり、そのため「プレゼント用にサラリーを早く支給する」文化の違いにびっくりしました。雑誌や新聞も今年のギフトガイドなど女性向け、男性向け、デザインにうるさい人向け、スポーツが好きな人、等々趣向を凝らしたギフトガイドを発行しアイデアを提供します。

このようなクリスマスのギフト文化は欧州独特のものかもしれませんが、ギフト需要に応えていくことは欧州マーケット開発のキーとなることは間違いありません。

さて、9月に新しいギフトアイテムを予約し、購入するための数々のトレードショーが今年は全てキャンセルとなりました。1つの会場に数千人、数万人集めることは現在のソーシャルディスタンシングを守る方向からは無理であり、仕方のないことです。

この代わりにできることとして、私たちがプランしているのがバーチャルトレードショーです。各ショップのバイヤーと時間を決めてZOOMやFaceTimeで新商品を見せながら商品の特徴を説明するなどトレードショーで行っていることをカメラを通して行う予定です。時間のないバイヤーにとっては優先順位を決めて絶対に入れたいブランドとはバーチャルで効率よく商談できれば生産性が高いのかもしれません。

この他、来週からはバーチャルポップアップショップやZOOMやFaceTimeを使用してパーソナルショッピングイベントも行う予定です。

ライフスタイルの中でもラグジュアリーファッション業界は特にCovit-19の影響が高くDiane von Furstenbergが大規模なレイオフを行いニューヨークの旗艦店以外世界規模でストアーを閉じるなどセンセーショナルなニュースも流れています。

このような中、UKファッションの大御所PaulSmithはUKでは今年のセールスが4月は一時的に落ち込んだものの昨年比と同じまで5、6月で巻き返しているそうです。彼の言葉は印象的で「特別なテクノロジーを駆使してオンラインで巻き返したわけではない、たくさんの人と話しをしているだけさ」。日頃からローヤルカスタマーを作れているのか、このローヤルカスタマーとのコミュニケーションをストアーを閉じていてもとれるのか、ブランドの底力が試されているように思います。以前PaulSmithのスタッフと話していて印象に残ったのは、転職率の高いUKリテイル業界でスタッフが10年、20年、30年とPaulSmithで働いていることです。ストアーやヘッドオフィスのスタッフが定着してブランドを愛していればローヤルカスタマーも増えていきそうです。

ブランドのイノベーション、アイデア、アイデンティティ、サステイナビリティ、機動力が深く問われています。夏休みを挟んで10月までにどこまでオンライン以外の消費が上がってくるか、どこまでクリスマス商戦に魅力的なアプローチができるか、分析とともにクリエイティブなハードワークは続きます。