ポールスミス

トレードショーのない9月

毎年8月の夏休みが終わるとともにパリのMaison & Objet, London Design Fair, Top Drawerなどなど欧州ではたくさんのトレードショーがあり、このタイミングでクリスマスギフトをオーダーして欧州の各ストアーは10月から店頭にて訴求を始めます。

欧州のクリスマス商戦は日本のクリスマスとは違い親戚一同、同僚一同、友人一同、ご近所の方達にも大きなプレゼントから小さなものまで、毎年私も30個は用意します。そのため11月、12月はなにかと出費が多く、また多くのUKの企業では12月のサラリーは通常の月末ではなく12月中旬に支給され社員のプレゼント需要に応えています。12月中旬から1月31日のお給料日までの間隔が長く「きつい1月」と言われ、寒いこともあって家に閉じこもるかジムで体を鍛えて出費を控える層が多くなります。30個以上ギフトを買うとなると時間もかかり、リストやプラン、予算を決めてショッピングを行いますが、12月には有給休暇を取って平日1日でリストを作ってプランしておいたクリスマスショッピングをガツっと行う人も多く、私がロンドンのオフィスで働き始めた頃には「ショピング用の休暇」があり、そのため「プレゼント用にサラリーを早く支給する」文化の違いにびっくりしました。雑誌や新聞も今年のギフトガイドなど女性向け、男性向け、デザインにうるさい人向け、スポーツが好きな人、等々趣向を凝らしたギフトガイドを発行しアイデアを提供します。

このようなクリスマスのギフト文化は欧州独特のものかもしれませんが、ギフト需要に応えていくことは欧州マーケット開発のキーとなることは間違いありません。

さて、9月に新しいギフトアイテムを予約し、購入するための数々のトレードショーが今年は全てキャンセルとなりました。1つの会場に数千人、数万人集めることは現在のソーシャルディスタンシングを守る方向からは無理であり、仕方のないことです。

この代わりにできることとして、私たちがプランしているのがバーチャルトレードショーです。各ショップのバイヤーと時間を決めてZOOMやFaceTimeで新商品を見せながら商品の特徴を説明するなどトレードショーで行っていることをカメラを通して行う予定です。時間のないバイヤーにとっては優先順位を決めて絶対に入れたいブランドとはバーチャルで効率よく商談できれば生産性が高いのかもしれません。

この他、来週からはバーチャルポップアップショップやZOOMやFaceTimeを使用してパーソナルショッピングイベントも行う予定です。

ライフスタイルの中でもラグジュアリーファッション業界は特にCovit-19の影響が高くDiane von Furstenbergが大規模なレイオフを行いニューヨークの旗艦店以外世界規模でストアーを閉じるなどセンセーショナルなニュースも流れています。

このような中、UKファッションの大御所PaulSmithはUKでは今年のセールスが4月は一時的に落ち込んだものの昨年比と同じまで5、6月で巻き返しているそうです。彼の言葉は印象的で「特別なテクノロジーを駆使してオンラインで巻き返したわけではない、たくさんの人と話しをしているだけさ」。日頃からローヤルカスタマーを作れているのか、このローヤルカスタマーとのコミュニケーションをストアーを閉じていてもとれるのか、ブランドの底力が試されているように思います。以前PaulSmithのスタッフと話していて印象に残ったのは、転職率の高いUKリテイル業界でスタッフが10年、20年、30年とPaulSmithで働いていることです。ストアーやヘッドオフィスのスタッフが定着してブランドを愛していればローヤルカスタマーも増えていきそうです。

ブランドのイノベーション、アイデア、アイデンティティ、サステイナビリティ、機動力が深く問われています。夏休みを挟んで10月までにどこまでオンライン以外の消費が上がってくるか、どこまでクリスマス商戦に魅力的なアプローチができるか、分析とともにクリエイティブなハードワークは続きます。