日本から欧州へ進出

家で過ごす時間、会社で過ごす時間

ロックダウンで家で過ごす時間が増えたため、インテリアデコレーションを変えたり、「心地よい家」を改めて考えた方も多いと思います。

 

2020年の欧州でのライフスタイルのトレンドと今後需要のあるエリアをWGSNのリポートとFTの情報からセレクトし私なりに検討してみました。

 

日本ではリモートワークが一段落してオフィスに戻るスタッフも多いと聞いていますが、UKでは業種にもよりますが、オフィスワーカーに限っては40%前後まで今後フルタイムでオフィスに戻ることはないと予想されています。雇用主側にとってもオフィスの家賃やデスク、チェア、会議室、電話等々スタッフ全員分を用意する必要がないわけで大きなコストカットになりますし、雇用される側としても通勤時間がなくなり家族との時間が増える、趣味やスポーツに使える時間が増え、リモートワークはポジティブに受け取られています。このため「心地よい家での過ごし方」「快適なホームオフィス」「新たな人との関わり方やコミュニティ」は今後の消費のキーとなります。下記は今後需要が増えると思われるエリアです。

 

1.     Zoom会議で印象に残る上半身に特化したファッション、アクセサリー。

2.     食品とドリンク類。ロックダウンで料理に目覚めた層が牽引する新たな調理器具の収集、たくさんのスパイスや保存食品を納められるパントリーを新たに作ったり、大きな新しいキッチンも需要が増えそう。

3.     ホームバー、ホームカクテルキット

4.     ヨガを家で行う際のマット、ブランケットなどヨガに必要なアクセサリーやホームエクササイズ関連

5.     ゲーム類(アナログ&デジタル)

6.     クラフト系のキット。陶芸、手芸などに加え、金継ぎ、ダーニング等修理を含むものは特にサステイナブルな意識が高い人々に人気

7.     DIYキットや塗料(壁の塗り替えもブーム)

8.     ガーデニング、家庭菜園にまつわるあらゆる物

9.     バーチャルエンターテイメント&バーチャルパーティ

 

私が日本と欧州で若干違うと思うのは、日本ではロックダウン解消とともにリモートワークもほぼ終了して、比較的早く元の生活(全員が決まった時間にオフィスへ行ってコンピューターに向かう)へ戻っていますが、欧州ではドラスティックにこの習慣が変わると思われます。ロックダウン前から会社や業種によっては自分専用のデスクがあるわけではなく、その日に空いているデスクを使うという「ホットデスク」と言われる習慣がありました。月に1回ミーティングのためにオフィスへ行くスタッフが増えるなど、今後ホットデスクの習慣が加速すると見込まれます。

 

毎日オフィスに通勤する必要がないことから、今後都会から郊外や田舎へ移住する人々も多くなると予想されており、心地よい家作り、暮らしを豊かにする、快適なホームオフィス作りのための物、アイデア、サービスは今後も需要が増えていくことは間違いないと思われます。またCovit-19後に多く言われているのが、Less buy but betterです。「高くても良いものを買って、長く大事に使う」。当たり前のことのようですがこの原点に戻って、環境に優しいもの、丁寧に作られた物、長く使って味わいのあるもの、など人や暮らしを豊かにして幸せにしてくれる物やサービスが求められています。大量生産、大量消費の時代はCovit-19を機に強制終了させられたのかもしれません。

内田啓子

 

 

デジタル化の加速とブランドのメッセージ

3月から欧州では不要不急の商材を扱うストアー、ブティックは一時閉店を余儀なくされ、各国徐々にオープンし始めUKでは6月15日の再オープンが予定されています。再オープンしたからといっても前のようにストアーに人が押し寄せるわけではなく、2mのソーシャルディスタンシングを守ってのショッピングとなります。このためデジタル化をどう加速させていくのか、そしてコミュニケーションの取り方、ブランドのメッセージの送り方を欧州のラグジュアリーブランドを参考に考えたいと思います。

 

約3ヶ月の閉店の間、ラグジュアリーブランドはブティックのドアをただ閉じていただけではなく、ハイスペンダーと呼ばれる超お得意様にはfacetime, WhatsApp (Lineのようなシステム) Zoomを使用して販売員がブティックの中で一対一のデジタルコミュニケーションをし、「新しいドレスが入りました。この色はトレンドです。」などとショップの中を移動しながら商材を見せ「デジタルウィンドーショッピング」でコミュニケーションを取り、閉店していても一対一の繋がりを持つことに時間を使っています。英高級デパートのハロッズではパーソナルショッパーと言われるショッピングの代行者を使用してお得意様の好みそうなアイテムをfacetime, WhatsAppで見せながら購入を促し、サイズが合うかどうか、返品したいかどうかを確認するため、配送の車が顧客の家の前で30分ほど待機して、返品したいものはそのまま持ち帰るサービスまで提供しています。

 

若いハイスペンダーはデジタルショッピングに抵抗はないのですが、彼らは「ショッピングの際に友人達の意見が聞きたい」ということで「ショッピングパーティ」をブティックの販売員とWhatsAppで作り、販売員が見せるジャケットなどを友人達の意見を聞いて、おしゃべりしながらショッピングを楽しむ。などリモートショッピングにも新たな要素が加わっています。ゲームの機能をオンラインショッピングに盛り込むブランドもあり、ショッピングにエンターテイメント性を持たせて楽しい夢のあるアクテビティとしています。ものを買うという行動は論理的ではなく感情的なものだと言われますが、Covid-19を機に各ブランドは感情に訴えるとともに、楽しい、しかも双方向性のマーケティングにシフトしているようです。

 

予算のあるブランドではすでに口紅の色や眼鏡をコンピュータのカメラ機能を使って試し掛けできるなど、3D機能を使用したデジタル試着は幅広いアイテムに広がり始め、単なるオンラインショッピングではない、付加価値のついたサイトの運営が加速しています。ただ、3D機能を使用したオンラインショッピングサイトはなくても、また旗艦店がなくてもfacetime, WhatsApp , Zoomを使用してクリエイティブなコミュニケーションができれば実店舗がなくてもダイレクトなコミュニケーションは可能です。柔軟なアイデアと実行力がブランドには問われています。

 

余談ですが、日本とUKの新聞を両方読んで思うのが、ロックダウンで日本では口紅の売り上げが下がっている一方、UKでは口紅の売り上げは上がっています。UKではZoomミーテイングが多い中でスクリーン映えする口紅は重要であり、またZoomミーテイングのバックグランドとなる壁面にかける絵画なども売り上げが上がっているエリアです。私も連日たくさんのZoomミーテイングを行っており、自宅のバックグランドの第一印象は重要だと感じています。

 

オンラインショッピングに付随する配送方法にしても、今までのスピーディな配送が良いという方向から、よりグリーンな配送が好まれる、またあえて「スローデリバリー」を選ぶオプションも作られ始めています。「スローデリバリー」は安いから選ぶわけではなく、混載であるが故に「環境に与えるインパクトが少ない」というオプションです。このようなサステイナビリティを問う、問題定義するブランドも今後より一層支持されていくと思われます。

 

アクションポイントとして、ITへの投資やITを使用したスタッフのトレーニングは最重要課題としてすべきです。ただ、多額の投資ができなくてもスマートフォンの機能を使って販売員やスタッフレベルのトレーニングでスキルを向上させSNSのライブ配信等ができれば顧客とのコミュニケーションは確実に向上します。ブランドからのメッセージも一方通行のメッセージから、今後はサステイナビリティや社会への貢献、希望や夢を持ちながら双方向性のあるコミュニケーションが求められます。ブランドにとっては新たなデジタルマーケティング戦略が求められています。

 

2020年 6月7日

内田啓子