欧州マーケット進出

ウェビナーとカスタマーサービス

Zoom, Team, Skypeでのミーティングが日常となった今、ライフスタイルブランドやリテイラーの行うウェビナーに広がりがでてきています。「ものの消費」だけではなく、「ことの消費」と言われて久しく、欧州でもワークショップを行うなどオンラインではなくストアーに行く、エクスペリエンスに意味を持たせる働きかけは多くのブランドやリテイラーが長く行ってきました。ワークショップがソーシャルディスタンシィングの関係で行えない中、ウェビナーがこのエクスペリエンスの役割を担っています。

ヴァンクリーフ&アーペルでは石やカッティングなど宝石にまつわるウェビナーを行い世界中のファンが視聴するなど、業界のプロならではの知識を教示しています。このような試みはものづくりに長けている日本のブランドにとっては非常に有効な手段であり、英語が得意でなくても職人さんの超人的な手捌きや制作風景、日本語でのレクチャーをフィルムにして英語の字幕をつけて流すことも有効な手段だと思います。日英2カ国語のレクチャーもありますが、個人的には2つの言葉で説明すると一つ学ぶのに2倍の時間がかかるため、字幕で編集されたものが有効だと思います。

ウェビナーは無料のものもあれば費用を払うもの、寄付ベースのものまで様々ですが、基本は業界のプロの知識が地球の反対側にいる消費者に届く、日本の作り手の思いやこだわりを欧州の消費者に理解してもらう素敵なチャンスです。

 私は欧州のリテイル業界に長く身をおく者として、どうやって商品知識をストアースタッフに持ってもらうか、苦心してきました。特にロンドンのリテイルストアースタッフは転職率が非常に高く、商品知識や接客マナーの高いスタッフを長く雇用することは費用のかかる難しいことでもあります。ウェビナーは録画してインハウスでストアースタッフのトレーニングに何度も使用できますし、ストアースタッフを通り越して、作り手がダイレクトに顧客に商品の価値や思いを伝えることも可能です。

 ロンドンではオンラインで全てがスムーズに購入でき、世界一高いと言われる家賃を払う「ストアーを持つ意味」がパンデミック前から問われてきました。最近の調査ではUKの67%のオフィスワーカーが今後毎日オフィスで仕事をしたいと思わない。と答えており、大きな住まいのスペースを求めて都市部から郊外、地方へ移住も始まっています。都市部にストアーを持つ意味がますます薄れつつあり、この流れの中でストアースタッフの雇用率も必要性も下がりつつあります。

 ただ前回のブログにも書いたとおり、ローヤルカスタマーの有無がブランドのスタビリティを左右しており、このローヤルカスタマーを育て、増殖しているのは直接顧客とコミュニケーションを持っているストアースタッフの役割が大きく、ブランドにとっては重要なブランドアンバサダーです。日本と欧州でのカスタマーサービスの違いは過剰なおもてなしは一切ないことです。顧客がストアースタッフに求めているのは丁寧なおもてなしよりも、「いつ行っても笑顔で迎えてくれる」「商品知識があり、話していると楽しい」から会いに(買いに)いくのです。オンラインが主流になっても、有能なかつての「スーパーストアースタッフ」が「スーパーカスタマーサービススタッフ」として活躍し、輝けるブランドはますます発展していくように思います。

家で過ごす時間、会社で過ごす時間

ロックダウンで家で過ごす時間が増えたため、インテリアデコレーションを変えたり、「心地よい家」を改めて考えた方も多いと思います。

 

2020年の欧州でのライフスタイルのトレンドと今後需要のあるエリアをWGSNのリポートとFTの情報からセレクトし私なりに検討してみました。

 

日本ではリモートワークが一段落してオフィスに戻るスタッフも多いと聞いていますが、UKでは業種にもよりますが、オフィスワーカーに限っては40%前後まで今後フルタイムでオフィスに戻ることはないと予想されています。雇用主側にとってもオフィスの家賃やデスク、チェア、会議室、電話等々スタッフ全員分を用意する必要がないわけで大きなコストカットになりますし、雇用される側としても通勤時間がなくなり家族との時間が増える、趣味やスポーツに使える時間が増え、リモートワークはポジティブに受け取られています。このため「心地よい家での過ごし方」「快適なホームオフィス」「新たな人との関わり方やコミュニティ」は今後の消費のキーとなります。下記は今後需要が増えると思われるエリアです。

 

1.     Zoom会議で印象に残る上半身に特化したファッション、アクセサリー。

2.     食品とドリンク類。ロックダウンで料理に目覚めた層が牽引する新たな調理器具の収集、たくさんのスパイスや保存食品を納められるパントリーを新たに作ったり、大きな新しいキッチンも需要が増えそう。

3.     ホームバー、ホームカクテルキット

4.     ヨガを家で行う際のマット、ブランケットなどヨガに必要なアクセサリーやホームエクササイズ関連

5.     ゲーム類(アナログ&デジタル)

6.     クラフト系のキット。陶芸、手芸などに加え、金継ぎ、ダーニング等修理を含むものは特にサステイナブルな意識が高い人々に人気

7.     DIYキットや塗料(壁の塗り替えもブーム)

8.     ガーデニング、家庭菜園にまつわるあらゆる物

9.     バーチャルエンターテイメント&バーチャルパーティ

 

私が日本と欧州で若干違うと思うのは、日本ではロックダウン解消とともにリモートワークもほぼ終了して、比較的早く元の生活(全員が決まった時間にオフィスへ行ってコンピューターに向かう)へ戻っていますが、欧州ではドラスティックにこの習慣が変わると思われます。ロックダウン前から会社や業種によっては自分専用のデスクがあるわけではなく、その日に空いているデスクを使うという「ホットデスク」と言われる習慣がありました。月に1回ミーティングのためにオフィスへ行くスタッフが増えるなど、今後ホットデスクの習慣が加速すると見込まれます。

 

毎日オフィスに通勤する必要がないことから、今後都会から郊外や田舎へ移住する人々も多くなると予想されており、心地よい家作り、暮らしを豊かにする、快適なホームオフィス作りのための物、アイデア、サービスは今後も需要が増えていくことは間違いないと思われます。またCovit-19後に多く言われているのが、Less buy but betterです。「高くても良いものを買って、長く大事に使う」。当たり前のことのようですがこの原点に戻って、環境に優しいもの、丁寧に作られた物、長く使って味わいのあるもの、など人や暮らしを豊かにして幸せにしてくれる物やサービスが求められています。大量生産、大量消費の時代はCovit-19を機に強制終了させられたのかもしれません。

内田啓子