日本のブランドの欧州進出

プラスチックを使用しないブランド

2022年の5月に3年ぶりに日本へ帰郷し、会いたかった家族や友人たち、美味しい和食、和菓子、日本茶、着物を見て周り3年間経験したかったことをほぼ完全に経験し楽しい時間を過ごしました。

日本に帰るたびに考えさせられるのは、コンビニ並ぶプラスチックボトルに埋められた一面の壁と、濡れた傘を保護するためのプラスチックの袋や雨の日に紙袋を保護するために提供されるプラスチックのカバーです。日本は分別ゴミのシステムができており、しかも真面目な人種でゴミ出しはほぼシステムができていると思います。ただ、プラスチックが海洋汚染や地球温暖化に悪影響を及ぼしていることは明らかであり、プラスチックを極力使用しない生活を心がけ、元々使用しなければ分別しなくても良いはずです。

UKではプラスチック税が設定され、梱包材を含めプラスチックを使用する量で税金が課せられる仕組みが始まり、弊社で商品を卸しているUKの大手の百貨店Selfridgesからはアイテムごとにどのようなプラスチックを製品及び梱包材に使用しているか、プラスチックの重量も1アイテムごとにリストの提出を求められました。このリストが提出できなければ今後の取引はできない、プラスチックの使用量が多ければ今後の品揃えからも外されます。日本のクライアントからは「日本のお客様は神経質なのでプラスチックのカバーは絶対に省けない」とよく言われます。また安価で便利なプラスチックを商品開発から省いていくのも至難の技です。その中、私の古巣でもある良品計画がプラスチックボトルの飲料水を撤廃したのは非常に評価されるべきで、日本の習慣に風穴を開ける決定だと思います。

欧州ではバースディカードなど今までプラスチックの袋で保護されていたものもカバーなしで販売されています。どうしてもプラスチックを使用するのであれば生物分解できるプラスチックの使用を推進していくことは、高額なPR活動よりも有効です。すでに2022年6月現在、欧州で生物分解可能なプラスチックの使用は当たり前で、メリットというよりも通常のプラスチックを使用することにより起こるデメリットのほうがダメージが大きい状態です。

各ブランドが光熱費や原材料の高騰で商品の値上げを行っていますが、これを機にプラスティックの使用を抑え無駄なもの、環境に負荷のかかるものを省く良いチャンスではないでしょうか?一般のお客様になぜ今までのプラスチックのサービスを行わないのか説明していく、ある意味教育していくのもブランドの価値を高める意味でも重要だと思います。

内田啓子

ウェビナーとカスタマーサービス

Zoom, Team, Skypeでのミーティングが日常となった今、ライフスタイルブランドやリテイラーの行うウェビナーに広がりがでてきています。「ものの消費」だけではなく、「ことの消費」と言われて久しく、欧州でもワークショップを行うなどオンラインではなくストアーに行く、エクスペリエンスに意味を持たせる働きかけは多くのブランドやリテイラーが長く行ってきました。ワークショップがソーシャルディスタンシィングの関係で行えない中、ウェビナーがこのエクスペリエンスの役割を担っています。

ヴァンクリーフ&アーペルでは石やカッティングなど宝石にまつわるウェビナーを行い世界中のファンが視聴するなど、業界のプロならではの知識を教示しています。このような試みはものづくりに長けている日本のブランドにとっては非常に有効な手段であり、英語が得意でなくても職人さんの超人的な手捌きや制作風景、日本語でのレクチャーをフィルムにして英語の字幕をつけて流すことも有効な手段だと思います。日英2カ国語のレクチャーもありますが、個人的には2つの言葉で説明すると一つ学ぶのに2倍の時間がかかるため、字幕で編集されたものが有効だと思います。

ウェビナーは無料のものもあれば費用を払うもの、寄付ベースのものまで様々ですが、基本は業界のプロの知識が地球の反対側にいる消費者に届く、日本の作り手の思いやこだわりを欧州の消費者に理解してもらう素敵なチャンスです。

 私は欧州のリテイル業界に長く身をおく者として、どうやって商品知識をストアースタッフに持ってもらうか、苦心してきました。特にロンドンのリテイルストアースタッフは転職率が非常に高く、商品知識や接客マナーの高いスタッフを長く雇用することは費用のかかる難しいことでもあります。ウェビナーは録画してインハウスでストアースタッフのトレーニングに何度も使用できますし、ストアースタッフを通り越して、作り手がダイレクトに顧客に商品の価値や思いを伝えることも可能です。

 ロンドンではオンラインで全てがスムーズに購入でき、世界一高いと言われる家賃を払う「ストアーを持つ意味」がパンデミック前から問われてきました。最近の調査ではUKの67%のオフィスワーカーが今後毎日オフィスで仕事をしたいと思わない。と答えており、大きな住まいのスペースを求めて都市部から郊外、地方へ移住も始まっています。都市部にストアーを持つ意味がますます薄れつつあり、この流れの中でストアースタッフの雇用率も必要性も下がりつつあります。

 ただ前回のブログにも書いたとおり、ローヤルカスタマーの有無がブランドのスタビリティを左右しており、このローヤルカスタマーを育て、増殖しているのは直接顧客とコミュニケーションを持っているストアースタッフの役割が大きく、ブランドにとっては重要なブランドアンバサダーです。日本と欧州でのカスタマーサービスの違いは過剰なおもてなしは一切ないことです。顧客がストアースタッフに求めているのは丁寧なおもてなしよりも、「いつ行っても笑顔で迎えてくれる」「商品知識があり、話していると楽しい」から会いに(買いに)いくのです。オンラインが主流になっても、有能なかつての「スーパーストアースタッフ」が「スーパーカスタマーサービススタッフ」として活躍し、輝けるブランドはますます発展していくように思います。

日本語から英語への翻訳

Maison & Objet Paris, London Design Fair, Milano design fairなど多くの人が集まる欧州でのデザインフェアに出展する日本のブランド、会社のスタンドを見かけると、自然に応援したい!という気持ちになります。大企業の出展であればイベントの一つで大きな賭けではないでしょうが、小さな会社にとっては欧州進出のための大事な一歩であり、このデザインフェアに賭ける意気込みも伝わってきます。欧州進出のため、みなさんもちろん英語の翻訳版の資料をお持ちなのですが、デザインも製品のクオリティも非常に洗練されているのに英語のパンフレットの翻訳の内容がブランドの価値を落としているケースを多々見かけます。(比較的認知度の高いブランドでもウェブサイトの英語が?の場合もかなりあります)。みなさん日本の翻訳会社で日本語が英文になった時点で翻訳会社を信頼してOKを出されているのかもしれませんし、それ以上にどのように翻訳のクオリティをチェックしたらよいのか方法がないのかもしれません。

そこで、英国で活動する日本人インターナショナルマーケティングコンサルタントとして、下記の二つのアイデアをお勧めします。

1つ目は翻訳会社に翻訳を依頼する際に「主に日本人の行う日本語から英語への下訳の後に、必ず英語のネイティブの人が行うネイティブチェック作業」をリクエストすること。ここで文法の明らかな間違いやスペリングの間違いは改善されます。イギリス英語とアメリカ英語ではスペリングも違います。例えばアメリカ英語ではColorがイギリス英語ではColour。アメリカをターゲットとしているならアメリカ英語で良いのですが、欧州市場をターゲットとするならばイギリス英語の翻訳が望ましいです。

 2つ目は日本語のパンフレットをそのまま翻訳するのではなく、日本に住んでいない人、海外マーケットをターゲットとするので、英語のパンフレットは日本語版後は別の内容で書く作業。例えば博多のブランドであった場合、九州、博多がどこにあるのかを日本人向けのパンフレットに書く必要はありませんが、欧州向けの資料には九州がどこで博多はどんな都市でどんな歴史があるのか説明が必要です。日本語と英語の資料の内容が違っていても問題はありません。この場合本当に大切なのは、ブランドのコンセプト、哲学、歴史、ストーリーを日本人以外の人々に伝え、そしてビジネスとして成立させることです。

 信頼できる英語ネイティブの友人やパートナーがいればパンフレットの印刷の前に必ず英語を読んでもらって、英文のクオリティを直してもらったり、日本の基礎知識がない人が読んでも納得できる内容であることを確認したいです。

 みなさんも欧州のブランドが発行する日本語のパンフレットで日本語の文法がちょこちょこ間違っていたり、子供のような言葉使いであれば信用できないと思うはずです。せっかく費用をかけた欧州でのデザインフェアへの出展、事前の準備はしっかり行いたいです。